「日本語訛り」以前の「でたらめ」発音
発音を練習してから英語を話すと、相手には日本語訛りの英語に聞こえます。日本語訛りがあっても英語に聞こえるし言っていることの意味がわかりますから、練習した結果として残る多少の日本語訛りはコミュニケーションのさまたげにはなりません。そういう英語は外国語として英語を学ぶ日本人学習者が目指すべき理想の英語です。
しかし、英語発音を練習せずに日本語の音だけで英語を話そうとすると、でたらめな発音に聞こえますから相手に通じない可能性があります。そうなると、コミュニケーションをとることがむずかしくなります。自分は一生懸命に英語を話しているつもりなのに、発音が不正確で相手に通じないとすれば、英語を勉強した甲斐がありません。
実は、文部科学省の指示に基づいて2021年度から日本の中学校と高校での英語の授業は「英語でおこなうことを基本とする」ということになっています。これは,先生も生徒も英語の時間中は英語で話せという意味です。でも、きちんと発音を教えてくれる先生はとても少ないので、教室で生徒が発する音が英語になりません。「でたらめ」になります。そして、生徒たちが日本語訛りの英語とさえ言えないようなでたらめ英語を話しても、たいていの先生はそのでたらめを放置します。
生徒がThank you.を「サンキュー」と言っても、run, ran, run, learnを「ラン、ラン、ラン、ラーン」と言っても、the best vestを「ザベstベst」と言っても、Hurry, Harry!を「ハリーハリー!」と言っても、その発音の間違いを指摘して指導してくれる先生はほとんどいないのです。
文法やつづりのミスには容赦なく✕をつけるのに…
ところが、先生たちは文法上の誤りには厳しくて、三単現のsとか単数と複数とか冠詞の用法とかつづりの間違いのようなものには、容赦なく×を付けて減点します。
先生は、My bike is broken, so I use her.という生徒の答案について「君はhersのsを落としてherと書いていたね。だから×だよ」と言い,その一方で「マイ バイク イズ ブロークン、ソー アイ ユーズ ハーズ」とカタカナ発音、すなわち、でたらめ発音で答えた別の生徒の解答は正解とするのです。
生徒たちの文法やつづりの間違いを指摘も指導もしない英語の先生はいません。もしそんな先生がいたら、生徒と保護者だけではなくて他の先生たちからも批判されるに違いありません。ところが、発音指導をしない先生が批判されたという話は聞いたことがありません。多くの人が発音など適当でよいと勝手に思い込んでいるからです。
とても残念なことに、日本では英語指導者には発音の知識も技能も求められず、小中高での英語指導に発音指導がきちんと組み込まれていることはほとんどないというのが現実です。でも、外国語学習に発音の練習がないということは、本来あってはならないことです。ですから、例えばNHKの語学講座では英語系の講座「以外」のすべてで丁寧な発音指導がおこなわれています。
発音指導をせずにでたらめを放置する先生たちの責任は大きいと思います。英語の指導者であるというのであれば、自らの発音技能を高めて生徒を正しく発音できるように導く責任があります。それができないのであれば英語の先生を名乗る資格がないと言われても仕方がありません。ピアノを弾けない人がピアノの先生の役目を果たすことができないのと同じことです。
というわけで、日本の学校教育で、そして学習塾での指導で英語を学ぶ人たちの多くは、発音を指導してもらえないという不利な状況で英語習得に励むことになります。しかし、やる気があれば発音の練習はいくらでもできます。よい書物も売っていますしユーチューブには無料で利用できるたくさんの動画があります。正しい発音を学んで、教材を英語の音でスラスラと音読できる力がつけば、英語学習の効率が飛躍的に上がります。
「発音はだいたいでいい」「通じればいいのさ」「発音よりも文法だ」「カタカナ発音でも通じるんだよ」などなど、いろいろなことを言う人たちがいますが、そういう「悪魔のささやき」に惑わされてはいけません。
発音は大事です。信じてください。