国や地域によって大きく異なる発音
アメリカ,カナダ,イギリス,オーストラリア,ニュージーランド,アイルランド,南アフリカ共和国などの英語圏の国々には英語を母語とする人たちがいます。その他,シンガポールやインド,カリブ海諸国などには公用語としての英語を流ちょうに話す人たちがたくさんいて,世界の英語話者の総数は15億人ほどだそうです。
英語には多くの方言があります。ですが,どこの国でも標準語の英語の語彙や文法はほぼ同じで,方言の違いは主に発音の違いです。アメリカ国内にもイギリス国内にも方言があり,かなり発音が異なります。
標準はアメリカ発音(とイギリス発音)だが…
外国語として教える英語としては,どこの国でも標準的アメリカ英語と標準的イギリス英語の発音だけをモデルとしています。日本では,小中高の英語の授業とその教材,NHKの英語教育番組,1級と準1級以外の実用英語技能検定試験「英検」では標準アメリカ英語発音が使われています。英検の準1級と1級と大学入試共通テストとTOEICのリスニング問題にはアメリカ英語に加えてイギリス,オーストラリア,ニュージーランドの発音も使われます。
日本の学校英語教育では発音をほとんど教えないので,生徒はアメリカ発音もイギリス発音もできるようになりません。教材の音声のアメリカ発音に少々慣れることはあっても,イギリス英語の発音については,先生も生徒もほとんど知識がありません。
例えば,次の二つの英文の中の母音はアメリカ英語とイギリス英語ですべて異なりますが,英語の先生でもそれを説明して発音し分けることができる人はごく少数です。
Tom Jones can’t dance fast.
トム・ジョーンズは速く踊ることができない。
George Parker’s dogs were hurt.
ジョージ・パーカーの犬たちはケガをした。
発音記号で書くとこうなります。(米)が標準アメリカ発音で,(英)が標準イギリス発音です。母音を比べてください。
Tom Jones can’t dance fast.
(米) /tɑ́:m ʤóʊnz kǽnt dǽns fǽst/
(英) /tɔ́m ʤə́ʊnz kɑ́:nt dɑ́:ns fɑ́:st/
George Parker’s dogs were hurt.
(米) /ʤóɚʤ pɑ́ɚkɚz dɒ́:gz wɚ hɚ́:t/
(英) /ʤó:ʤ pɑ́:kəz dɔ́gz wə hə́:t/
今度は子音を比べてください。子音には英米の発音に違いがないということに気付くでしょう。英語の方言の差が現れるのは主に母音です。標準英語の子音はどの方言でもほぼ同じです。
母音と子音だけが発音ではありません。発音にはイントネーションも含まれます。方言が異なるとイントネーションにも違いがあります。例えば,疑問文のアメリカ英語とイギリス英語のイントネーションはこうです。
(米) Are you from Japan?
(英) Are you from Japan?
アメリカ英語では,低い声で進んでpanでスーッと上がります。イギリス英語では,高めの声で始めてそのまま進み,panで一旦下がってグッと上昇します。
まずはアメリカ発音をマスターしよう
発音に違いがあっても,英語圏の人たちはそれぞれの国の標準的な発音で話せば,お互いを理解することができます。ですから,私たちは方言の違いを気にせず,アメリカ英語の発音をモデルにして通じる発音を習得すれば十分です。そして,学習が進んだ段階でイギリス英語やその他の方言の発音について知識を得て,いろいろな国の英語を聞いて慣れていけばよいのです。
英語の授業で発音を教えてもらえなければ自分で学びましょう。今は,ユーチューブ動画などを利用すれば,アメリカ発音でもイギリス発音でも無料でいつでも練習できるありがたい時代です。