「それ」は that
「it=それ」というのは間違いです。何かを指して「それ」と言うときにはthatを使います。何かおいしそうなものを食べている人に対して「それは何ですか?」とたずねるときに”What’s that?”とは言えますが”What is it?”とは言えません。
Itに相当する単語は日本語にはなく「dog=犬」のような一対一で対応する日本語の単語はありません。まずそのことを確認してください。人称代名詞itは訳語を覚えるのではなくて,使い方を理解することが大切な単語なのです。残念なことに,日本では英語学習の最初の段階で「it=それ」という間違いが多くの学習者の頭に刷り込まれてしまいます。
it は it
Itの意味などを考えてはいけません。Itはitなのです。次の英文を見てください。Itを「それ」と訳すと変な日本語になり,「それ」を消すと普通の日本語になるのがわかりますね。ですから,itが「それ」であるはずがありません。
① “You like that shirt, don’t you?” “Yes, I like it very much.”
「君はそのシャツが好きなんでしょう?」「うん、それが大好きだよ」
② “Look at my hand. It’s very dirty.”
「私の手を見てよ。それはすごく汚れている」
③ “That baby is cute. It looks like a boy.”
「あの赤ちゃんかわいいね。それは男の子のようだね」
④ “There’s someone over there. I wonder who it is.”
「あそこに誰かいる。それは誰だろう」
⑤ “It’s five o’clock.” “It’s still dark.” “It’s freezing.”
「それは5時だ」「それはまだ暗い」「それはすごく寒い」
⑥ “Where does it hurt?” “It hurts here.”
「どこでそれが痛むのですか?」「ここでそれが痛みます」
では,「それ」でなければ itとは何なのでしょう。
①②では直前に話題にのぼった人間ではない単数のものthat shirtとmy handの代わりをしています。つまり,heにもsheにもならない単数のものをitで表しています。
③④では直前に話題にのぼった人間ではあるけれど性別不明の人that babyとsomeoneの代わりをしています。つまり,heなのかsheなのかがわからない単数の人をitで表しています。
⑤⑥では動詞isと動詞hurt(s)の主語です。このitには「意味」はありません。英文は主語がないと文にならないので,itを主語にしています。
⑤のようなitを「時間や天気や寒暖などをいうときのitの特別用法」などと呼ぶ人がいますが,別に特別なわけではありません。なぜなら他の人称代名詞(I/we/you/he/she/they)のどれにも当てはまらないものはすべてitになるからです。英語には三人称単数の人称代名詞がheとsheとitしかないので,heでもsheでもないか,あるいはheだかsheだか決められない単数のものはすべてitになるのです。「一人の男性→he」「一人の女性→she」「それ以外の三人称単数のものすべて→it」というわけです。
さらに例文をあげておきます。
“What’s this?” “It’s my wallet.”
「これは何なの?」「ぼくの財布だよ」
“What’s that?” “It’s Jim’s bag.”
「あれ[それ]は何なの?」「ジムのカバンだよ」
“Oh, no! It’s raining.”
「あら、いやだ。雨が降っている」
“I like it here.”
「ぼくはここが好きだ」
“Can I ask you something?” “Sure, what is it?”
「ちょっと聞いていい?」「もちろん。何だい?」
“Who is it?”
「誰なの?」(*ドアを叩く音に対して)
“Who are you?”
「君は誰なの?」(*目の前にいる人に対して)
どうですか。Itは「それ」ではありませんよ。